【私のファーストテイク】鹿児島県 奄美大島 - 日本島写真家協会

【私のファーストテイク】鹿児島県 奄美大島

クリエイターとして、写真や料理、イベントの企画や運営などで活動している幸秀和と申します。

想いをはせる最初の1枚は、鹿児島県奄美大島です。
島で生きたいと決意した、初めての島旅。

その頃は釣り番組の映像制作会社で働いていて、深夜に現場へ向けて出発し、夜に戻ってきたら次の現場という目まぐるしい日々。自然はすぐ身近にあったのですが、島にはなかなか出会わずに過ごしていました。
ある時、撮影先が奄美大島に決まり、ふと思い出しました。祖父の故郷は奄美大島だったと。僕が生まれる前に祖父は亡くなっており、訪れる機会がなかったのです。

島に着いて驚いたのは、砂浜の白さと太陽の強さです。
とにかく眩しかったのを覚えています。日光を遮るように目の上に手をかざすのではなく、照り返しを防ぐため、目の下に手を置いたのは初めての経験でした。
波打ち際に近づくと、淡い青色が広がり海底のサンゴが遠くまで続いているのが見えます。海の中には赤や黄色などの鮮やかな魚たち。大きさが分かるほどの透明さです。これまでの現場とは全く違う圧倒的な自然の力を感じました。

圧倒された体験にひたる間もなく、慌ただしい毎日から数年後。これからの生き方と向き合わなければならない出来事が起こります。
たび重なる長時間の撮影が原因で、手首、ひじ、ヒザなどの関節を痛めてしまい、日常生活も困難な状態に。23歳でおじいちゃんおばあちゃんと一緒にリハビリをしたり、ヒザに溜まった水を抜くなどの治療を続ける中、考えるのは動けなくなる人生についてばかり。

「動けなくなる前に、もういちど奄美大島を見ておこう」

そう決めて、初めての島旅へ。
祖父の故郷である集落を見に行ったり、釣りをしたり、とにかく出来ることをやってみようと島をめぐりました。
夕陽が沈みマジックアワーで青紫に染まる空を眺めつつ、砂浜近くの駐車場でぼーっとしていると、周りの建物や車から人が外に集まり、空を見上げ始めたのです。指をさしてざわざわと歓声が上がるので、流星群でも流れ出したのかと、同じように見上げました。

すると、星の谷のような天の川を飛び越えるように、流れ星が。続けて並走するようにもうひとつ。これから始まるのかと待ちますが、自由気ままな流れ星たちは時間も場所もばらばら。あとで知ったのですが、島のきれいな夜空ではよく流れるそうです。
あらためて指をさしている方向を見てみると、月がありました。
満天の星空から照らす月明かりは優しく、波の音に虫の声、森や海が僕たちを包み込むような島の夜。

「あ!欠けてきた」

目を凝らせば、月の端が小さい円で切り取られたように黒くなっています。
スマホやノートPCを持っておらず、情報不足なのでアナログな方法に頼り、耳を澄ますと、どうやら皆既月食らしい。
少しずつ黒が広がり、細い三日月になると、心なしか辺りが暗くなったような気がして、虫たちも静かに。ただ波音だけが響き、集まった人々も見守ります。
わずかな月の光を地球の影が隠すと、ハッキリと分かるほど暗く、見上げる人たちのシルエットだけが動いています。凛とした雰囲気で、幻想的な赤銅色の月が浮かぶ、ただただ静寂な世界が生まれました。

再び月が照らしだすと、蒼い砂浜と森が少しずつ目覚めるように、さわさわと音を立てはじめます。シルエットだった人たちも笑顔で歩き出し、いつもの時間が戻ってきました。
五感で受け取る自然の体験、捉え方や選び方は自分で決めていい。そう思えた瞬間でした。
そして、朝陽を浴びながら、誰もいない砂浜を一歩一歩踏みしめて歩き、昨夜と違い青空が広がるこの場所を写しました。これが私のファーストテイクです。

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