【私のファーストテイク】東京都 小笠原諸島 母島 - 日本島写真家協会

日本島写真家協会共同代表の井月です。「いづやん」の名前で覚えてくださっている方も多いかもしれません。私の「ファーストテイク」は、そのまま「初めての島旅」の記憶と重なっています。
当時は大学4年生。もう31年前のことです。あの頃は自然写真系の雑誌がいくつもあり、特に新潮社の『SINRA』がお気に入りでした。著名な自然写真家たちが世界中の風景や動物の写真を誌面で紹介していて、それを夢中で眺めていた時期です。そんな折、たまたま手に取った一冊に「日本で唯一、野生のイルカと泳げる場所」として紹介されていたのが、小笠原の父島でした。
確か『SINRA』にもアメリカのバハ・カリフォルニアでのマダライルカとのドルフィンスイム写真が掲載されていたことがあり、羨ましく見ていた記憶があります。まさか日本に、そんな場所があるとは・・・と、衝撃を受けたのを今でもよく覚えています。
居ても立ってもいられず、一人旅も島旅も未経験なのに、小笠原行きを決めました。ちょうど就職活動が一段落し、大学生の長い夏休みに入るタイミング。ネットもない時代、書店で見つけた小笠原のガイドブックだけを頼りに宿も船も手配し、片道28時間半かかる初代おがさわら丸に乗り込んだのです。
今でも変わらない悪いクセ、「どうせ行くなら一番遠いところに行こう」精神が発動し、父島に着いたその足で、さらに2時間かけて母島へ。おがさわら丸、ははじま丸を乗り継いで、人生初の離島・母島にたどり着いたのです。見たことのない真っ青な海、ほとんど商品がない港の商店、聞き慣れないセミの声。「日本に、こんな場所があるのか・・・」と浮き足立つような気持ちで歩いたのを覚えています。
翌日、ガイドブックに「北港へは、ちょっとしたハイキング気分で」と書かれていたのを真に受け、500mlの水筒だけ持って出発。炎天下のなか、10kmもの道を3時間半歩いて到達した北港では、せっかくの美しい海で泳ぐ元気も残っておらず、浜でくたびれて横になることしかできませんでした。
その時の写真が、北港の桟橋に立った自分をセルフタイマーで撮ったものです。親から借りたキヤノンのフィルム式コンパクトカメラを、なぜかちゃんと持ってきていた三脚にセットし、セルフタイマーを押して桟橋まで全力疾走。ポーズを決めて撮って、また戻ってもう一度――今思えば滑稽ですが、どこかに「ただ北港に行って帰って来るだけじゃなく、せめてカッコいい写真を残したい」という意地があったのかもしれません。
この旅は、日本の果てに来たという実感、熱帯の大自然、面白い旅人たちとの出会い、そして台風による足止め、といった「島旅の魅力」がすべて詰まった3週間でした。
そして、帰宅後に現像した写真を見て思ったのは「自分が見た景色は、もっと綺麗だった!」という軽い落胆。この体験がきっかけで、1年後にはフィルム式の一眼レフカメラを買い、ポジフィルムで島の風景を撮り始めました。島を撮ることにのめり込むようになった原点は、間違いなく、あの夏の小笠原との出会いだったのです。
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